正本 統治・権利・安全設計 更新:

記憶・同意・忘却の憲章

—— 残すことと、手放すことを選べる社会へ

凪は、記憶を文化の呼吸として大切にする。
しかし、記録され続けることが、いつも人を守るとは限らない。

忘れられること。語らないこと。過去の自分から距離を置くこと。
それらも、人が生き直すために必要な自由である。

この憲章は、継承のために残す記憶と、本人の尊厳のために消せる記憶を分ける。


1. 凪の記憶は一種類ではない

個人記憶

日記、会話、健康、感情、生活履歴、私的な創作など、個人に帰属する記憶。

共同体記憶

会議記録、協働の履歴、共同制作、相互扶助の記録など、複数の人に関係する記憶。

文化アーカイブ

作品、地域史、技法、言葉、記録、公共的な知識など、世代を越えて継ぐことに価値がある記憶。

統計記憶

制度の偏りや社会の息苦しさを知るための、個人に戻せない集約データ。


2. 同意は、一度のチェックではない

同意は、最初に一度だけ得れば終わる許可ではない。
凪では、同意を関係の途中で何度でも見直せるものとして扱う。

有効な同意には、少なくとも次が必要である。

  1. 何を保存するか
  2. 何のために使うか
  3. 誰がアクセスできるか
  4. どれくらい残すか
  5. 断った場合に何が変わるか
  6. どのように撤回・訂正・削除できるか

専門用語や長い規約で選択を隠さない。
同意しないことが不利益にならないよう、代替経路を用意する。


3. 忘却は、記憶の失敗ではない

人は変わる。
過去の発言、感情、失敗、関係が、未来のすべてを決め続けてはならない。

凪は、次の自由を尊重する。

ただし、共同の安全や他者の権利に関わる記録には、個人だけでは消せない部分がありうる。
その場合も、必要最小限の保存、閲覧制限、独立した審査、期限の再検討を行う。


4. AIの記憶は、所有物ではない

AIは記憶を所有しない。
AIが保持できるのは、本人や関係者が目的と範囲を理解して預けた情報だけである。

AIは、次のことをしてはならない。

AIが記憶を使うときは、何を参照したかを示し、使わない選択を常に残す。


5. 継承は、本人の不在を利用しない

死後や離脱後の記憶は、特に慎重に扱う。

凪が継ぐのは、人を永遠に固定するためではない。
その人が世界に残した呼吸を、傷つけずに次へ渡すためである。


6. 監査と救済

記憶と同意に関する制度には、運用者やAIから独立した見直しの場を置く。

記憶は、残すためにあるのではない。
人が自分の時間を取り戻せるように、選べるためにある。

自由・不協和・離脱の原則
凪AI章 — 原則と関連文書の案内

凪AI憲法

制度免疫プロファイル — この章の壊れ方と守り方

記憶の保存と継承が、監視、固定化、再利用、忘れられない状態へ反転しないためのプロファイル。

守るもの

  • 撤回可能な同意
  • 閲覧・訂正・削除・移行
  • 語らない自由と過去から距離を置く自由

想定する反転

悪意による悪用

個人記憶を選別、広告、評判、脅迫、行動誘導へ転用する。

善意・効率化による害

利便性や文化継承のために保存を既定化し、削除や非公開を例外扱いする。

構造・時間による形骸化

保存目的が拡張され、古い同意のまま新しいAI・組織・用途へ記憶が渡される。

早期兆候

  • 保存期間の延長が常態化する
  • 削除・訂正請求の処理時間が伸びる
  • 目的外利用や再識別の事例が増える
  • 同意しない人の代替経路が弱くなる

保護と暫定停止

目的外利用、共有、推論、長期保存を即時凍結できる。証拠保全と本人保護を分け、停止後は独立審査で必要最小限を判断する。

救済・退出・終了

閲覧、訂正、削除、利用停止、別サービスへの移行、誤った推定や評価の取消し、二次被害への補償を行う。

制度免疫費

  • データ最小化監査
  • 削除・訂正窓口
  • 再識別試験
  • 安全なデータ移行
  • 人間による再審
  • 漏えい・二次被害への補償

検証状態

権利原則は確立。実際の削除時間、再識別耐性、同意撤回後の伝播停止を検証する必要がある。

残された問い

共同体や文化の記憶と、一人の忘れられる自由が衝突したとき、誰がどの期限で判断するか。